携帯電話に千紗の自宅の番号は登録していなかったが、昔、何度も電話をかけた記憶があったので、指が勝手に押していた。

 呼び出し音を耳で聴いて、早く母親が電話に出ることを望んだ。

 しかし、待てど暮らせど電話に出るけはいさえない。

 コールは十回した。

 田久万はあきらめて、携帯電話のホールドのボタンに右手人差し指を置いた。

「もしもし……」

 携帯電話のスピーカーから声が漏れてきた。

 千紗の母親だ。

「田久万です」

「ああ、田久万くん! 久しぶりじゃないの」

「あの、今、千紗に電話かけたら、つながらなくて、多分、バイト中だと思うんですけど、どこにいるかわかります?」

「千紗なら駅前のコンビニだと思うわよ」

「そうですか。ありがとうございます」

 田久万はまだ、会話したそうな千紗の母親であるが、強引に携帯電話を切った。

 重大な事実がわかるかもしれないのだ。

 田久万は即行で家を飛び出した。