田久万は千紗と話すチャンスを失った。

 午前の短い休み時間も昼休みもである。

 午後の授業も終わり、千紗は足早に帰宅して行った。

 千紗の顔を見ると、本心ではないが、つい『ブス』と言ってしまいそうになるのを抑えたが、『好き』とも言えず、悶々と時間は過ぎていた。

 慶子と顔を比べれば見劣りするが、玲と比較すれば断然千紗の方がかわいい顔をしている。

 田久万は素直になれない自分に腹立っていた。それに大口や茂呂にまでも気があることを指摘され、さらに苛立つのだ。

 思えば小学生から中学生のころまでは千紗を異性として、見てなくて、高校生になって、二学期が始まり、急に田久万は千紗に色気を感じた。

 戸惑っているのだ。

 言葉では一言で済ませるが、田久万の内心は穏やかではない。それに、恋敵も出現したのが火に油を注がれた。

 大口はあれから何も言ってこない。玲に夢中なのか、休み時間はいない。もちろん慶子も草間といるはずだ。

 だから、茂呂はとりあえず、いじめられることもない。

 放課後、教室には田久万しか残っていなかった。

 帰る気がしないのだ。

 千紗は今ごろ、男に連絡でもしているのだろうか。