「そんなことないよ……」

 田久万はきっぱりと否定した。だが、顔は少しにやけていた。

「隠しても無駄だぞ。その顔は」

 すぐに大口は突っこみを入れた。

「顔に書いてあるか?」

「書いてある」

「冗談、きついな」

「マジだよ」

 田久万にとっては不利で、返す言葉もなくなっていた。

「はいはい。授業です」

 何とタイミングが良いのだろう。騒いでいる田久万と大口の間を遮ったのは音楽教師だった。女性教師だったので、やさしい口調だったので、田久万は助かったし、遅刻もとがめることはなかった。