「もうお仕事は終えられたんですか?」



「えぇ。今日は何とか帰してもらえましたよ。上司は不機嫌でしたがね」



「・・捜査が進展していないんですね」



「まぁ、そんなところです。駄目ですよ?刑事、弱音を吐くって記事しては」



「もちろん。今日はあくまでもプライベートですから。そこまで性根は腐っていませんよ」




 そんな話をしながら、そば屋の道の一本奥の道にある小さな焼き鳥屋に2人は入っていった。



「呑むんですか?」と市川が心配そうに訊ねると「えぇ、まぁ少しだけ」と原田は愛想笑いを浮べた。



 然程込んでいない店内で、2人は申し合わせたように奥の小上がりに着いた。



 やはり原田は事件の話をすると市川は察して、ほくそ笑んだものの少し身構えた。



 あぐらを掻いて座ると、お互いに咳払いをして、メニューに目を移し、そして適当に注文すると、しばらくの間黙り込んだ。




「今日は私が刑事だということを忘れていただきたい」




 頼んだ物がテーブルを埋め尽くしたとき、唐突に原田はそう言って市川は見た。