30秒も経たない内に「寝てやがるな、ババァ」と呟いたのを受け、原田が大家に連絡を取ろうとしていたことを察した。



 すぐさま違うところに原田が電話を掛けようと顔を逸らした瞬間、部屋の中から物音が聞こえ、原田と市川は顔を上下にずらして部屋の中を覗いた。



 ちょうど玄関の正面にある窓が開き、全身を覆うような黒い布を羽織った者がいて、躊躇なく窓から飛び降りた。



 市川と原田はなにを話したわけでもなく、咄嗟に市川は左、原田は右へと走っていった。       


 大体同時に下に着くと、2人は辺りを見回し、人影がないことを確認すると左右からジリジリと足を進めていった。



 そこは雑草がうっそうと茂っていて、しゃがむと身を隠せそうではあったが、明らかに人影らしきものはそこになかった。



 2人がその中程で再会し、互いに道に不振人物がいなかったかどうか確認すると、市川はため息を、原田は眉間にしわ寄せて舌打ちをした。