その日、市川は朝5時過ぎに目を覚ました。



 当たり前のように辺りは静けさを保ったままだった。



 一日経ったというのに、そして血を流した坂井教授を目の当たりにしたはずなのに、市川の笑みは収まっていなかった。



 少しずつではあるが、目に見えない危険に近付いているというのに市川は楽しそうだった。



 今までこんな風に事件に巻き込まれたことがなく、蚊帳の外にいたせいかもしれない。



 市川は知らず知らずの内にいつも歯痒い思いをしていた。



 だから今の状況が楽しくてしょうがなかったのだ。



「次は野村か・・・その次は鎌田」




 寝癖頭をボリボリと掻きながらタバコを銜え、市川はしゃがれた声でそう呟いた。



 血を流して倒れていた坂井教授から受けた動揺と不快感は、もう既に失われていた。



 いや、そもそも動揺はしていたものの、不快感は受けていなかったのかもしれない。