階段を鬼のように駆けていく黒沢の背中を見失わないように全力で追った。



 身長の差は歴然としていたが、まさかここまで身体能力の差があるとは、と黒沢の背中を追いつつ市川は思った。



 市川が黒沢に追いついた頃には、坂井教授の研究室に到着していた。



 足を踏み入れると、入り口の真正面にある窓の下に倒れ込み、腹部辺りを押さえている坂井教授の姿が市川の目に映り込んだ。



 白いタイルの床には坂井教授のものと思われる血が、大量かつ広範囲に渡って飛び散っていた。




「坂井教授は?」




 市川のその問い掛けに黒沢は頭を左右に振って答えた。



 血まみれの坂井教授の目の前にしゃがみ込んだ黒沢は慌てる様子もなく、淡々と坂井教授の周りに目を配っていた。



 それが一通り終わったのか、黒沢は短い息を漏らす坂井教授に静かに声を掛けた。




「上田はお前等が造った実験体に殺されたのか?」



「ひっひっ・・・やっぱりあなたでしたか。初めて会ったときからそんな気がしていました」



 坂井教授は力を振り絞るように、ひどく小さな声でそう言って、睨むように黒沢を見た。