「すみません、少しよろしいですか?」




 しゃがみながら涙を拭っている女の背後から、市川は穏やかな口調でそう話し掛けた。



 女は振り向き「警察の方ですか?」と表情を沈ませながら市川に問い掛けた。



「いえ。こういう者です」



 市川はポケットに忍ばせておいた名刺を手渡すと、女は「はぁ」とため息にも似た声を出した。



 そして名刺に書かれた職業名を見るなり、女は深いため息を吐いて肩を落とした。          


 きっとメモを見つけた警察に女は事情聴取を受け、上田に関することを嫌と言うほど口にしたのだろう。


 だからジャーナリストと知って肩を落とすのも無理はない。




「よかったらお時間を少しいただけないでしょうか?」           



 女の心情を察してながらも市川はそう口にした。



 そしてできるだけ相手に嫌悪を抱かせないように、柔らかに微笑んだ。