運命という絆

七つの大罪の一つ…"色欲"
それが香の脳裏をよぎった。
「私も試されている?…」
今は、何の想いすら無い、どうでも良い別れた亭主の事が浮かんだ。
「あの人に取って私は単に男の本能の捌け口に過ぎなかった…物を扱うかの様な行動は苦痛でしか無く性と云うものが嫌で仕方無かった。そして、由美を授かった後、アイツの女癖の悪さに愛想を尽かし離婚したのだ…」
想い出したくない過去の記憶が脳の引き出しから出たのは、比較であろうか?

「この事は、大人である貴女なら口外無しの"二人の秘め事!"…私は、女性の身体を知り貴女は私を通して我が父を知る等価交換。後も先も無い過去と云う事で…」
言葉通りに拓真の表情も、香への教示するようだった。

「"蛙の子は蛙"…いや、鷹と言った方が良いわね」
既に着替えを終え、背を向けながら又、新たに煙草をくわえ火を着けた拓真に呟いた。
「………もう過去です」
その姿勢は、余韻の残る香を現在に戻す最善の策の様に、その言葉は未だ生まれたままの格好の香を我に戻し、女性ならではの手際良さで香は着衣をした。

「時間はあるわ…のんびりしていったら?」「何か、父に付いての話はありますか…」
何事も無かった様に居間に戻った拓真と香は向き合っていた。
「まだ、お酒を飲む?」
拓真はアルコールでは無く、水をリクエストすると香は冷蔵庫へ向かおうとするのを止め水道水を希望した。
「これは、父の言葉です。"安全と水は"ただ"だと…」「確かに過去、そう云われていたわね…」香は何かを想い出した様に流し台の水道水をグラスに注ぎ拓真の前に置いた。

「ありがとうございます」礼の言葉を忘れず伝えた後、拓真はグラスの水をゴクゴクと喉を鳴らし一気に煽った。「その姿もお父様そっくりだわ…そうやって美味しそうにお店でボトル毎、ミネラルウォーターを人目憚らずに飲まれてましたよ。『この世の飲み物で何が美味いって?やっぱり水だろ!』って」香は懐かしそうに拓真を眺めた。

「『酒には飲まれるな!酒で性格が変われるヤツが羨ましいが…』これも父の残した言葉です」「次元の違う強い精神力をお持ちでしたね。酔って乱れた姿を私は拝見した事は無かったし…そして正直なところも貴方にそっくりよ…」香も拓真になぞらう様に水道から水を汲み、女性特有の仕種でグラスに口を沿えた。「確かに過去、飲料水を買うなんて商売絡みでしか無かったしね…」『無から人は現在迄来た…』