運命という絆

母は、由美に医学生当時の事を話した事が無かった。"今の状況が当たり前"と娘は思っているのか、尋ねられた事も無い。当時は、女性に取って大きな変換期であり、そして、男と女の立場が逆転した現代だが、拓真の父は、それすらも未来を読んでいたかの様だった。
「今、会ったとしても、憶えてはいないだろう…」
それ位、彼は魅力的で憧れる女性は溢れていた。
「私が、あの人と結婚していたら?…」
母は、万が一を想像した。
「私も拓真の母みたいに暴君となったかも知れない…判る気がする…」
女として同情もあった。だが…運命というものは、娘の父を彼と色の違う男を与えた。彼が店へパタリと足を遠ざける様になって一年後位経った頃、現役の開業医と客とホステスという関係で出会った…


「何だろう?…急に眠くなって来ちゃった…」夜も更けて来た良い時間に由美が目を擦り言ったと思うや隣の母に身体を寄せ寝息を立て始めた。
「これで、会長さんとサシでお話し出来るけど…御時間は大丈夫かしら?お父様と少しばかり御縁があった一人の女として、私は貴方との時間が欲しいの」
母は、真顔で見詰めた。

「睡眠導入剤ですか?…」
拓真は、シャンパンを煽り動揺もする事無く笑みを浮かべた。
「流石ね…本当に遺伝子って恐ろしいわ。洞察力もお父様そっくり!シャンパンじゃなくてウイスキーも有るわ」
「父を知っていると聞いてこのまま、おいとまは出来ないですね…今日は何か予感がしていました。」
「この子は、朝迄、起きないと思うけど…」
「このまま、此処で休ませる訳にはいかないでしょう…彼女の部屋はどちらですか?」
拓真は、由美を抱き上げ訊ねた。
「案内するわ」
「女性とは、恐ろしいものですね」
「そうね。でも、その上を行くのが会長さんみたいな男でしょ…」

「こんな、オバサンと付き合わせてしまいごめんなさい。私は、藤田香(かおり)…"藤丸翔"!の名前を耳にし、貴方が彼の御子息だと確信したわ。こうやって殿方にお酒を作るのは、あの若かりし当時以来よ」
香は用意したアイスぺールから氷をグラスに入れながら少し、照れた。
「父は、過去の事は一切話してくれない人でした…母が死ぬ間際に話してくれた事で少し知った位です…」
「私も、由美に過去の事は一切話していない。でも、貴方には話をしない訳にはいかない…」
「だから、薬を使って迄寝かせたのですか…知らない方が幸せと云う事が、あるのは確かですね」