運命という絆

「お父さんは、不思議な存在…二十年近く一緒に居ながら手の平の上で転がされていたのは私だった…初めて出会ってお父さんに一目惚れ…格好、良かったのよ。かつて新宿歌舞伎町で"夜の帝王"藤丸翔と異名を馳せていた人の人生をボロボロにした罪の代償なのよ…でも、良いの…近くで看取って貰える私は大往生なのかも知れません…これからの人生は、お父さんの言う通り自分自身で決めなさい……生まれ…てくれ…て…あ…り…が…と……」
母が遺した最後の言葉だった。「お母さん…お母さん!お母さん!!うわぁ~!」
繋いでいた母の体温が、みるみる下がって行くのを感じた拓真が大きく叫んだ。
その肩を父が優しく掴み、枕元のボタンを押した。
心電図のグラフが、一本の線になったまま、もう動く事は無かった…


「安らかな顔だな…」
父が母を見てポツリと言った。

「母さん…」拓真は、母の死を目前にして泣き崩れ途方にくれた。

「残酷なもの…運命というものは…」
父の言葉は、見えない力への怒りをぶつける様だった。



「会長……」由美が、拓真の話に貰い泣きしながら呟いた。

「………」
由美の母は、暫く言葉を出せなかった。そして、記憶の引き出しが遂に開いた。
「まさか…目の前に居るのが、あの人の子供?!…通りで、何処かで見た感じがした記憶はこれ…」
母は、飄々とした拓真を見詰めた。

「由美…貴女は、お酒よりジュースの方が良いみたいね。取って来るわ」
母は、そう言って中座した。

「麻薬…か、そうかも知れない。『彼を忌み嫌う人は、気を付けた方が良いわね…分かり易いでしょ』バイト先のママが言っていた言葉を思いだした」
拓真の父は当時から男として、出来上がっていた。「君は、何処の大学出身?」との接待相手に尋ねられ「僕は、中卒ですよ」と学歴等、眼中に無いと云う堂々とした態度は、合同祭での拓真そっくりであった。その返事に接待相手の方が逆に動揺する様を何度、眺めた事だろう…自身が高学歴しか能の無い事を自身で晒す醜態は、男を見る上で参考になった。「何で君が?…」彼を同次元の存在として自身の評価を高めようとする行為は空振りする。だが、その後のフォローは頭の回転が速いから直ぐに用意され、接待相手に恥を掻かせない。彼の社交性は、老若男女問わず、流石だと感心するしか無かった。

「そのDNAを受け継ぐ男が、此処に居る…」