運命という絆

 今年の春…

「私には、きっと罰が下ったの…」

拓真の母は、自身で酸素の通る管を痩せた腕で外し、精一杯の笑顔を創り、残り数十分の命だと覚悟したかの様に掠れた声で話しだした。
病魔とは恐ろしいもので、人間の体力を此処迄奪いさり、若い拓真も信じられない程、痩せた母の手を握るのが精一杯で何も言えなかった。
張りのあった肌は見る影も無く、二ヶ月程の短期間で老人を思わす様に全身がすぼみ、顔色もどす黒い黄色へと変色していた。

"母が倒れた!"その一報は、年が明け春を間近にしながら身が凍る様な寒さが圧す日に学校に連絡があった。
「最近、痩せたんじゃないか?…顔色も良くない」父が、母に声を掛けた一週間程、後の出来事である。

「末期の進行性癌で、持って三ヶ月…だそうだ」
「えっ?!…それが残された母さんの生命?…そんな…」
「……」


…信じられなかった。
そして、遂に人の死を初めて目前にしている今があった。

「話をして来なさい…恐らく最後の会話だ。容態が変わったら呼ぶように…二人きりで話したいそうだ」

「母さん…」
「もう時間が無い…話して置きたい事があるの…私は、いけない母親でした。でも、立派に育ってくれた貴方に感謝するわ。自分勝手な母でごめんなさい…貴方が生を受けてくれたお陰で、私は幸せな人生を送れました。お父さんには、本当に申し訳無い事ばかり…きっと、その報いが来たのね。お父さんが、本当に愛した人からお母さんは、貴方を盾にして奪い取ってしまったの…それ位、愛していたのに私は変わってしまった。何でも赦してくれたお父さん。その優しさに溺れてしまったのね…嫉妬にくれ、大切な人だけでなく彼から仕事も奪い束縛を続け、遂には自由すら奪い取り感情のまま暴力迄、振るってしまう程に…それでも辛抱してくれたお父さんが、大好きで仕方ない。"愛するが故に"じゃ何の理由にもならないのにね…お父さんは私に取って麻薬みたいなもの。何時しか、社会的にも自分勝手で傲慢になってしまっていたのは、女ゆえかしら?世間体に私は気を取られ、人様に私が手塩を掛けた訳でもないのに貴方の事を自慢ばかりしてきた私……黙って、何も文句一つ言わず影となって支えてくれたお父さんに感謝してるわ。拓真は本当にお父さんに似て来た。貴方の将来が見られないのは残念だけど…きっと立派に生きていくのでしょうね」
「もう、無理しないで…」拓真が母の手を両手で強く握った。