運命という絆

運動会と硬膜下血腫が何の関係があるのか?藤田親娘は、黙って次の言葉を待った。
「父は、その一週間前辺りから『頭痛がする』とは言っていたのです…しかし、頭痛持ちの為に鎮痛剤で症状を誤魔化しながら運動会当日となりました。これも不思議な事ですが、中学校の隣に脳神経外科病院が在り、父兄参加の競技が午後と云う事もあって何を思ったのか?病院嫌いの父が母に内緒でその病院に検査に行ったのです…CTスキャンを受け検査の結果を待合室で待っていたら突然、父はストレッチャーに乗せられ有無を言わせず『緊急手術します!』と、直ぐに用意が始まったそうです…急な出来事に父は抵抗し、『学校に戻る!』と訴えましたが、そのまま手術になりました…勿論、私と母は急に父が居なくなった事を心配しました。父と連絡が取れたのは手術後で…症状はそれほど深刻だったらしいです…」
「余程、血液が溜まっていたのね…言葉の呂律とか変わらなかったのかしら?」
「そんな素振りは全く見せないのが父なんです…運動会が無かったら学校にも来ず、もし?病院が隣に無かったら父は、テレビを"ぷつり"と消す様な感じで命は途切れていたかも知れなかった…と担当医の話でした」
「凄いお父様だったのですね…」
由美が、唾を飲み込み呟いた。

「原因は、何だったのかしら?…」
母が頭を傾げた。

「…僕の母です」
普通なら言葉に出来ない事を、拓真は毅然と口にした。

「父の心の強さと運は神掛かりです…前にした上で恐縮ですが、女と云うのは権力を与えると恐ろしい事になると身を持って教えてくれた父…一度目は、包丁で腕を刺され大出血…腕で庇わなければ即死だったでしょう…そして、二度目は灰皿で頭を殴らせた事がさっき話した原因…で、散々やりたい放題だった母は、今年…手の施し様が無い末期のスキルス性癌であっという間に亡くなると云う次第…」

そう言うと、拓真は又、煙草に火を着けグラスのシャンパンを煽った。
由美も母も、拓真の家庭の実情を知り暫くは、口を押さえ言葉を出せなかった。

「お母様は、社会保険労務士だったそうね…」
「労務士事務所で下積みしてから労務士の試験を何度も受け、やっと資格を取ってから性格が一変しました…僕には、一流大学を目指す様に押し付けた母…自分が叩き上げで苦労して資格を取った歴史がコンプレックスを産んだのだと、父は説明してくれました。だから、僕に、そんな思いをさせない様に、とも付け加えて…」