運命という絆

「ねぇお母さん聴いて!…」由美が夕食の席に腰掛けるなり、声を高くした。
「ハイハイどうしたの?何か良い事でもあった!」食事の支度を終えエプロンを外しながら由美の母が訊ねた。
「来年の生徒会長に、私を会長が推してくれてるみたいなの…」「あら!そうなの?でも貴女に勉強との両立、大丈夫かしら?」「私は、受験しなきゃ駄目?…」「急にどうしたの?冷めない内に食べましょ」「うん…頂きます」由美は両手を合わせたが、箸には手を付けず話を続けた。「会長は受験しないんだって!それに、他の先輩達は、志望校を首都圏から外す様に話をしたみたい…」「あら!貴女はその場に居なかったの?」「その時、生徒会室から私は、体よく外されたのよ…」「会長さん受験しないの?…東大、楽勝じゃなかった…それに他の方も志望校を変えるってどういう事かしらね?」「ね!何か変でしょ?あ!それと、会長のお父さんは今、行方不明らしいの…」「あらあら、それは、大変だわね…」「それと…」由美は、拓真が生徒会室で煙草を吸った事も話し掛け慌てて自分の口を押さえた。
「何?まだ有るの…今日は色々あったのね」「でも会長は、人事みたいに何も無かった様に私を、駅迄送ってくれたの…」由美は嬉しそうに頬を赤くした。「良かったら今度、連れていらっしゃいな。私も彼が気になるし…食事とか誘ってみたら?」「ねぇ、もうすぐクリスマスでしょ。家で一緒に…なんて思ってたりして」由美がペロッと舌を出した。「彼がOKしてくれたらでしょ…来てくれそうだったら早めに言ってよ!美容院とか私も準備有るんだから」「えっ!?…お母さんズルい!私も一緒に連れてってよね!それに服も欲しい…」

由美の母は感じていた。田中拓真は、必ず此処に来ると…
「彼は、何かを背負おうとしている」
合同祭での拓真の傷を縫った時から、不思議と縁を感じ気に掛けていた。それが、娘を通じて、近くなっている。不惑の年齢を越えて、忘れ掛けていた何かを拓真に気付かせて貰った様な気持ちもあった。
「由美じゃ、無理かな…」女手一つで由美を育てた母は、そう感じ、せめて想い出を作ってあげたかった。


「お母さん!会長、来てくれるって!!誘って良かったぁ!今迄、誰からもプレゼントを受け取らなかった会長がよ!もう自爆覚悟」

由美からの報告に母は、「やっぱり…」と当然の事と思ったが、表面は、宝くじでも当たったかの様に「良かったわね!」と一緒に喜ぶ素振りをした。