運命という絆

「天命を知りて人事を尽くす…これが、父の残した別れの言葉…『王手!』だ…浩司」
何かを考える様に拓真が、将棋盤から眼を離し…火の着いた煙草を灰皿に押し付け呟いた。その様は学校で創っていた笑顔とは全く反対だった。

「敵わないな!やっぱり強い…俺も貰うぞ一本!それに、この将棋は今迄と棋風を替えたな拓真?…後、呟いていたのは"人事を尽くして天命を待つ"の間違いじゃ?」本多は、生徒会室を後にした後、一人暮らしの拓真のアパートに寄って将棋を打っていた。勿論、これが本多の本来の目的では無く…生徒会室での話の続きと真意を確かめる為に「今日、寄っていいか?」と訊ねると拓真は快諾し「ああ…今日は泊まって行けよ。未だ、話す事あるし、久し振りに一杯やろう…」と、由美を高校の最寄り駅迄、無事に送り届けた後での流れとなった。

「わぁ!綺麗ですね…もうすぐクリスマス…」駅に着いて由美が、乾燥した冷たい空気の中、白い息を際立たせ大きく吐きながら言った。

駅前は、この時期、当たり前の様にクリスマスツリーで飾られ、あちこちできらびやかに色々な個性を主張するように照らされている。

「気を付けて…」「会長と副会長に送って戴けるなんて♪有難うございました!」
何も知らない由美は定期券を改札に通した後、振り帰って無邪気に手を振っていた。

「母が亡くなったのが去年のクリスマスイブ…年明けの春、父は俺に家を売り払い財産の生前贈与をして行方不明になったのは話した通り…さっきの様に此処で父と将棋をして俺が、初めて父に勝った時だった…」

「強くなったな…」
「父さんは、玉将毎、攻めて来るから…それでも、僕は勝てなかった…今回だって入玉されたら僕の負けじゃない」
「心…気持ちだ」
「?…」
「もう、一人前だな…拓真」
「父さん…?」
「実は、母さんと結婚する前に一つの約束を私はしている…」
「えっ!…何が言いたいの?」
「その約束の日まで、少し旅に出る…。それが、来年のクリスマスイブ…それまで生かされていたら東京に私は居る筈だ…会いたかったら、その時、来れば良い…もし、お前が大学に進学を希望するなら東京…いや首都圏以外の場所にしなさい」
「どうして?」
「………その時、嫌な予感がするんだ…何かが起こる!だから、中途半端に為らない様に…これから先は、拓真自身で物事は決めなさい!もう勉強より経験がお前を成長させるだろう…その時がどうやら来たようだ…」