「やあ、春樹くん」

 まただ。
 今度は晴れ渡る青い空の下、僕等の卒業式が行われていた体育館裏。どうもこういう行事が苦手な僕は、肩を抱き合って泣く同級生と後輩を避けるようにここに来た。冷たい風が容赦なく吹き付ける。

 ナホは少し向こうの壁に寄り掛かっている。本当、どこから出てきたんだこいつ……。
 以前あったのは1週間ぐらい前だろうか。あの時からほとんど、いや全く変わらない服装で彼女はそこにいた。

「卒業、おめでとう」
「は、はぁ……」
 ナホも同い年に見えるのだが、彼女の卒業式は終わったのだろうか。
「造花、じゃないね。赤い花、綺麗だよ。似合ってるじゃないか」
 ボーっとしていたので、ナホが目の前まで歩み寄ってきたことに気付かなかった。
「似合ってるだって?僕にか?」
「あぁ、似合ってるさ。赤、炎の色、危険の色、血の色」
「変なこと言うなよ」

「泣かないのかい。キミは」
 そんなこといわれても。
「泣く理由なんてどこにもないじゃないか。会おうと思えば会えるし、僕に別れが悲しいほどの友達なんていない」
「冷めてるんだな」
「冷めてるんじゃない、周りが熱すぎるだけさ」
「それもそうかもしれないな」

 ……。何だろうこの沈黙は。壊してはならないような、そんな。
「…………ではなぜ彼らは泣いてるのだと思う?」
 静かに話し始めるナホ。
「馬鹿だから」
 泣けばいいと思ってるから。泣いた方が皆に好かれるから。そんなところだろ。
「あ…っはははっ…。いや、面白いね。キミは」
「何がだよ」
「私もそう思うさ」
「ふーん」
 まぁ、そんなもんだと思ってたがな。

「だから僕に話しかけた。だろ」
「……!」
 少し驚いたような顔をするナホ。
「分かってないとでも思ってたのか。僕だってそこまで馬鹿じゃない。お前が僕と似てるなってぐらい、思うさ」
「流石だね。春樹くん」
 そういうところが好きだ。
「そういうところが、好きだぜ」
 言うと思ってた。
「ほらな、似てる」
「?」
「なんでもねーよ」

 考えることが似ている。思考回路が似てる。そんな相手と話すのは、こんなにも心地よく、楽しいのか。
 自分と同じように考える人間なんて、そうそういるもんじゃないと思っていたから、とても嬉しいと思えた。
 正直、僕の考えは腐ってる。分かってる。ただ、同じ人がいるんだなって、それだけで楽しい。

「ありがとな、ナホ」
 結局ナホは何者なのだろうか。まぁそれは後でも聞けるかな。
「僕、帰るから」
「え、ちょっ…」
「何、まだ話すことがあるのか?」
 そんな感じで、僕とナホはより仲良くなったのだった。