* * *
「はぁ~…」
昼休み。少しの用事で職員室に行っている間にお弁当タイムを終えてしまったらしい春川くんを見て溜め息を吐く私。
今日春川くんと話すチャンスはおそらくもう無いだろう。
「切ない……」
「元気出して、さゆり。お弁当食べよ!」
寝ている春川くんを見つめていると、お弁当を持った優愛が私の顔を覗き込む。うん、と適当に返事をして鞄から自身のお弁当を取り出した。
「まさか、春川くんがあんなに忘れっぽい人だったなんて」
「忘れっぽいんだ」
「本当に彼女と言えるのか……」
「面倒な男捕まえたなぁ」
突然後ろから掛けられた言葉に驚き振り返ると。
コンビニの紙パックのカフェオレを持ったヤスくんの姿。
「ヤスくん!」
「よっ」
この人はいつも、こういう話をしているときに登場するな……。
そういう位置のキャラなのだな。と、そんなことを考えながら。
「中原、あんた大和(ヤマト)の彼女になったの?」
「まぁ、一応ね」
「ふーん、……あいつ全然そんなこと言ってなかったから」
ヤスくんは春川くんと一番仲が良い。
クラスメートとほとんど話している所を見たことがない春川くんと、唯一話をする人間だ。
「あいつと付き合うにはすごーく忍耐力が必要だと思うよ」
「そうみたいだね。……既に忘れられてたし」
クスクスとおもしろそうに笑うヤスくんに、投げやりに言う。すると、あぁ、と彼。
「あいつは、忘れっぽいって言うより、……」
「?」
「いや、……まぁいいや。ま、根気よく頑張れ」
何か言いかけたのを途中で止め、曖昧に笑う。
……忘れっぽいんじゃなかったら何なの?
ヤスくんの言葉が気になった。
言いかけた事は最後まで言ってよ、と言おうとしたが直ぐに友達の所へ行ってしまった。

