彼氏くんと彼女さんの事情



「何してんの?」




眉をひそめてあからさまに訝しげな声色で問えば、彼女たちはぎょっとした顔をこちらに向けた。




「………」

「………」

「………それ、さゆりの」




俺の顔を凝視しながら無言で固まる彼女たちのひとり、さゆりの教科書やファイルを手に持った女子に向かって言いつつ、それを掴むと。




はっとした表情で手の先に視線を落とし、パッとそれから手を離して、逃げ出した。



「あ、真依!」



他の女子二人も真依と呼ばれた彼女を追って、逃げていく。




「…………」




俺は彼女から奪い取ったさゆりのものを手に、しばらく動けないでいた。




「春川くん?」



突然、背中から声がかかった。はっとして振り返ると、後ろにさゆりが立っていた。




「そこで何してるの?」




怪訝な様子で俺に近づくさゆりに、どうすれば良いかわからずに立ち尽くしてしまう。




たった今の出来事を隠蔽しようにも、開けっぱなしのロッカーと俺の手のものは明らかに彼女自身の目にも入っているはず。




「……女子達が、……」




言い繕う言葉が思い付かずに言葉に詰まっていると、すべてを理解したらしいさゆりの表情が曇った。




「あー……、またあの人達か、」

「………」

「大したことないから、そんな顔しないで大丈夫だよ?」




今まで見たこともない、へらりしたと笑顔を浮かべてさゆりが言った。



取り繕っているのが見え見えだった。




「何で俺に言ってくれなかったの」

「いや、ほんとに大丈夫だから!」

「………」