ねぇ、俺にしなよ。


「あっ、あのっ!
私、寝坊して急いで来たら、チャイム鳴って!
それで、走って体育館探したら、中庭のマーライオンがっ.....」

「ちょっ、ちょっと待って! 落ち着こ」




一気に喋ったせいで、荒くなった私の背中をさすって、
彼はゆっくり聞いてきた。




「つまり......“迷子”なんだよね?」

「う゛っ......はい」



悔しそうに答えた私を見て、クスッと笑った彼。


「....っわ!」


すくっと立ち上がり、そのまま私の手を握った。


「今からでも間に合うから、行こ!」



そう言って、ニコッと笑いながら、走り出そうとした時.....


「あれ? .....校章は?」

「えっ」


この学校の、校章のバッジ。
彼の胸元にはしっかりとついている。

慌てて自分の胸元を見ると.......


「ないっ!!!!!!」


つけるの忘れてた.....
もう、私どこまでバカなのっ?!



すると、目の前の彼は
自分の校章を器用に外し始めた。

「.....え?」

そして、また器用に
私の制服へとつけた。



「よし! これでOK。
じゃあ行くよ!」



もう一度繋がれた手を引いて
彼は走り出した。


手から伝わる彼の体温で、
肌寒く感じていた朝も、暖かくなった。



私のペースに合わせて走ってくれるその後ろ姿に


私は.........




初恋をした。