いつの間にか腕を掴まれて身動きが取れなかった。
だから殴る代わりに精一杯睨むと、一馬の目が見開かれた。


「ちょ、っ……あーもう!」

「は?」


あーもう!と言いながら俺の肩に顔を埋める一馬。
そして深いため息。
なんだってんだ。

一馬の方を見ると、ほんのりと顔が赤くなってる。
は…?ますます分からねぇ。

すると、だしぬけに一馬が俺の方を向く。
めっちゃ顔近い。まじで近い。

ちょっと戸惑っていると、一馬がまた深いため息をついた。



「ほんとね、自覚して?涙目で睨まれてもほんと困るから。
今みたいに真っ赤な顔でキョドられても困る。なに、そんなに俺を生き地獄にしたいの?」

「はあ?」

「あのね。これでも俺、頑張って毎回毎回翔と会うたびに理性と戦ってんの。
それをことごとくぶった切ろうとして…
今度やったらもう知らなよ?」



え、と…。つまりはあれか。俺が無自覚に煽っていた、と。

俺がそう聞くと半ば呆れてる一馬は大きくうなずいた。
なんてこった。まさか自分で危機的状況を作っていたなんて。
いや、でもそんな事したつもりはないし、今だってしてるつもりまないし…

あ、だから無自覚にやってんのか。


……なんか、ちょっと一馬に申し訳なくなってきた。


「なんかごめん…一馬」

「ーーーーっ!!あぁー、もー!なんで言った傍からそんな可愛いことしてくれちゃうわけ!?」

「へ?」


よくよく見ると、一馬の顔が赤い。真っ赤と言っても過言ではない。

そんな俺を見て一馬は、もうだめだ、と呟いた。


「なんで分かんないの?俺今めっちゃ頑張ってたのに!なんでそんな見つめてきちゃうの!?
もう知らないって俺さっき言ったよな?だからな?覚悟しろよ」

「はい!?」



まてまてまて、落ち着け一馬。
頼む、これ以上近づくな。近付いてくるんじゃねぇー!!!