男が帰ってやっと私は店へと足を踏み込んだ。
ジャンプしてドアノブを下げる作業はなかなかコツがいるのだ。

「ニャー」

「いらっしゃい。黒猫さん」

いつも優しい彼女は今日も棚からお気に入りの缶詰めを開けて私にくれる。

「ニャー」

「黒猫さんに会ったのも随分昔の事のようだね」

そう、彼女が言うように私たちは随分昔からの仲なのだ。冬の寒さに凍えながら、痩せ細った足でとぼとぼ歩いていたら彼女と出会った。丁度店先だった。
彼女は小汚い野良猫にも優しく接してくれた。

私にとって彼女は特別なのだ。
だから、彼女を悲しませる奴は許さない。

「ニャー(あの男もだ)」

「あら、今日はよく鳴くのね。何か良い事でもあったのかしら?」

あぁ、私の想いが彼女に伝わればいいのに。
もし、私が人間になれたら必ずあの男なんかより彼女を笑わせてやれるのに。

でも、今はまだ無理そうだから、私が人間の男になるまではあの男に彼女を任せといてやろう。

あー、早く人間になりたい。願わくばイケメンとやらに。

終わり