荷物をまとめ集合し谷口が試合の講評をした。


次の試合は勝てる可能性もある。引き続き練習に励んでいこうという内容だった。


最後に「草野が加わってまた活気が出てきたな。」と俺の肩を叩いた。


「あざーす!」


おどけて返事をする俺の視界には独り黙って俺を見つめる櫻井がいた。


何も言わず解散の言葉と同時に自転車小屋へ向かった。


「わりぃ。勝たせてあげられなくて。」


桜井の言葉に振り向かず答えた。


「これが今の俺の実力。ってかそう人生うまくいくもんじゃないよ。これで調度いいわ。」


グズッ。


洟をすする音に驚き振り向いた。



「お前本当に死ぬのか?悪い冗談だよな。そんなピンピンしてるのに。


もう会えなくなんのかよ。」



腕で涙をぬぐいながら桜井は声を殺し泣いた。



「俺もどうやって消えるのかわかんない。もう一回トラックにひかれるのか勘弁だけどな。



桜井。ありがとな。お前のおかげで目が覚めたよ。」



俺は桜井に頭を下げた。


「行けよ。最後のやり残したこと、今度こそ決めに行けよ。


後のことは俺に任せておけ。」


そう言って、桜井は涙できったない顔で笑った。


「行け!啓太!」


そう叫び桜井は俺の背中を押した。


何も言わずもう一度頭を下げると俺は自転車にまたがり走った。


駅前に近づくにつれ人が増え、色とりどりの浴衣とすれ違った。


人込みで自転車が進みづらくなり、路肩に止め俺は走った。


夕焼けの空に群青色の夜空が染みこもうとしていた。


点滅し始めた信号を走り抜けようとした時だった。


強引に左折しようとした車が激しいブレーキ音を鳴らし止まった。


頭の中では「ゲームオーバー」の字が浮かんだ。


閉じた目をゆっくり開けると一時停止された世界が広がっていた。