「直接話をするのは無理なのかな?おばちゃん親父の居場所知らないの?」


おばちゃんは俺を見上げ、少しして立ちあがった。


「自立しようとする時って、自分のルーツみたいなもの知りたくなるのよね。


俺はなんの為に生まれてきたんだ!みたいなね。


力になってあげたいけど、おばちゃんもわからないのよ。」


おばちゃんは申し訳なさそうに手を合わせ頭を下げた。


「そうか・・・・啓ちゃん就職してここ出ていっちゃうのか。寂しいね」


おばちゃんは背伸びするように俺の頭を撫でた。



「美代ちゃんに会いに来るついでいいから、ここにも顔出しなさいよ」



「あ・・・・うん。顔出すよ」



おばちゃんのくしゃっとした笑顔に手を振った。


おばちゃんも知らないとなると、手掛かりはあの手紙しかない。


でも、あの手紙が届いたのは3年前だったような気がする。


住所は書いていなかった。


手掛かりは手紙に押された消印だけ。


俺は午前の部活を終えるとすぐに家に帰り、誰もいないことを確認し母ちゃんの部屋に入った。


手紙は母ちゃんが箪笥の右上の小さな引き出しにしまったところを見ていた。


あれから3年。


あの手紙はまだしそこにあるんだろうか。


誰もいないとわかっていても、そっと引き出しを開けた。


数枚の手紙の中にそれはまぎれていた。


手紙の中の便箋にはけっしてうまいとは言えない字が書き連なっていた。


「美代子様


随分と涼しくなってきましたが、風邪などひいていませんでしょうか。


啓太は元気ですか?もう中学2年生になるのかな?


連絡もせず、本当にすまなかった。


やっと借金の目途が付きそうです。


俺にそんなことをする資格はないかもしれないけど、


苦労を掛けてしまったせめてもの償いとして、少しでも足しになればと思い送らせてください。


少ないけど、啓太の高校入学の足しにしてください。」


封書の中には母ちゃん名義の通帳が入っていた。