「その人は公園に住んでいたホームレスでした。


昔は大工だったみたいだけど、ギャンブルで借金まみれになって身を隠し生きていました。


公園に住む前は、少林寺拳法の師範もしていたと言っていました。



毎日のように打ちのめされる僕を見て、歯がゆくて見ていられず、つい声を掛けてきたようでした。



見た目は仙人みたいな風貌のその人は、『強くなって自分自身の身を守れ』と僕に詰め寄ってきました。


見ず知らずの、しかもホームレスのその人の言葉に、僕の心は動かされました。


正直・・・・誰でも良かった、誰かに救って欲しかったんです。



それからの毎日、僕は公園でその人に拳法を教わりました。」
 





いつの間にか黒ケンを囲み座り込んで話を聞いていた。

 

「強くなったのに何でいじめられ役なんだよ」
 



桜井が腕を組み、納得いかないと首をかしげ問いかけた。
 
 

「修行を始めても、そんな状況を知る由もない奴らは、お構いなしに僕をいじめてきました。


ボロボロになりながらも『強くなりたい、強くなってこんな日々から逃れたい』その思いで、辛い修行を乗り越えてきました。
 

でも・・・強さを身につけても、ずっと負け犬だった。



僕は・・・自信がなかった。


力の強さでこの現実から逃れられるのか・・・もしかしたら、この先もっと大きな壁が、待っているんじゃないかって・・・。



結局、何も変われなかった・・・。」

 


遠くで午後の授業のチャイムが鳴っていた。




「変化が怖くて・・・。


いじめる側も・・・傍観者もいやだったから僕は・・・いじめられる側を選んだんです。」

 

傍観者だった自分には心が痛む言葉だった。
 


「だからって、無抵抗なわけ?じゃ~何のための拳法なのよ?」

 



ガブリエルは容赦なく尋問を続けた。