「啓太・・・深いねぇ~」



黒ケンの下敷きになりながら、桜井が親指をたて渋い顔をした。
 



「って言うかお前早くどいてくんねぇ」


桜井は黒ケンを持ち上げ言った。
 

「あっ!すみません!!」


桜井の上から転がるように離れた。
 
 


「お前さぁ・・・実は弱くないだろ」

正座で座っている黒ケンの目の高さにしゃがみこんで、ガブリエルが問いただした。


「えっ?なっ何を言っているんですか?」



思いもよらない問いかけに、黒ケンは動揺を隠すかのように眼鏡を持ち上げた。
 
 


「何いってんの~神田。黒ケンだぜ?1年の時からボコボコの対象で有名なのよこの人。」



桜井は外人のように両手をオーバーに上げ、信じられないと首を振った。
 


「お前、殴られてっ時うまい具合に急所をかばっているよな。それも相手に気付かれないように。」


ガブリエルは黒ケンの前髪をはたいて弄りながら続けた。
 



「何で弱い振りしてんの?」

 


冗談だと思っていた桜井も、黙り込んで黒ケンの答えを待った。

 
しばらく俯いたまま黙り込み、ごまかせない事を判断したのか黒ケンは口を開いた。

「僕は・・・少林寺拳法をしていました。



拳法は、ある人に教えてもらったんです。拳法は人を傷つけることに使うものではない・・・その人はそう言ってました。」




黒ケンは途切れ途切れ話した。
 


「小学校の時は本当に弱かった。

毎日毎日いじめられてました。あの時も公園でクラスの男子に寄ってたかっていじめられ、ボロボロになってしばらく立ち上がれないでいました。その時、その人に助けられたんです。」
 


正座の上に置かれた拳を黒ケンは強く握り締めていた。