タケダさんだった。キヨさんの好きな人だ。
タケダは私の事をもう気づいていたようで話しかけて来た。
「こんにちは。」
「・・・こんにちは。」
なるべく話したくない空気をびしびし出していたにもかかわらず、タケダは
続けざまに私に話しかけて来た。
「風邪ですか?最近、お年寄りも風邪がはやっていて大変なんですよ。」
「はい。風邪です。そうなんですか、大変ですね。タケダさんは怪我ですか?」
左手の人指し指が、包帯でぐるぐる巻きにされている。
「はい。おおげさですよね。折れてはいなかったんで良かったです。
ちょっとお風呂介助している時にやっちゃって。」
「大変ですね。」
私は、早く自分の順番が呼ばれないかとそわそわした。
このまま何分も待たされるとこの人とずっと喋り続けなくてはいけない。
私はそれが面倒くさかった。
「・・渡辺さん、いつもキヨさんと話していますよね。」
私は、見られていたんだと思いびっくりした。
「・・はい。たまに。いろいろお話ししてくれるので。」
「珍しいんですよ。キヨさん、他の人とはあまりしゃべりたがらないから。
 ほら、あの性格でしょ?スタッフも嫌み言われちゃうから話しかけずらくて。」
確かに、キヨさんが他の人と話しているところをあまり見た事はなかった。