「それで、現地で具体的にどうすればいいんですか?」

無音はタブレットを桐山に返しつつ、尋ねた。

「あぁ、実際にはしてもらう事は特にないんだがね。いわゆる現場監督の様なものさ」

桐山はタブレットをしまい、代わりに書類を取り出した。

「引き上げる作業については、その道のプロ達がやってくれるよ。まさか君がサルベージまでやれるとは思っていないさ」
「作業予定やら出向準備の仔細については、この資料に書いてあるから目を通しておいてくれ」
「報告書なんかも書いてもらう必要があるから、熱中して忘れないようにな」

桐山の説明を聞きつつ、無音は書類に目を通し始めた。
そこには隕石の詳細な位置やサルベージの手順が記されており、それだけで彼の胸は躍った。
しかし改めて隕石の写真を眺めるうち、無音はある事に気付いた。

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「ウィドマンシュテッテン構造がすでに見えている状況というのも妙ですね」

「うん?そうなのか?」

「えぇ、通常は切断したあとに、断面のエッチングや研磨を経て見えるものなのですが…異様に構造が綺麗な事も不思議だ」

「ほぉ」

「落下の過程で何か起こったんだろうか…それとも今までにない組成を持っているのか…?」

「…まぁ、私は空に浮いている星ばかり見ていたものだから、その辺りは詳しくないがね。ともあれ現物を調べて、その辺りの疑問の回答も報告してくれると助かるよ」

桐山はよっこいしょ、とトレイを持ちながら立ち上がった。

「さてと、私は論文の続きをやらなくては。今日は遅くまでいるつもりだから、資料で何か不明な事が合ったらいつでも聞きに来てくれ」

「了解しました。…チーフ、ありがとうございます」

桐山はニッと笑い、席を離れた。
食器を下げに行く彼の背をしばし眺め、無音は再び資料に目を落とした。

-出発は…ちょうど来週か。
-特に予定も入っている訳ではないのだ。今すぐにでも向かいたい気分だ。

今日は退屈しないで済みそうだ、と無音は高揚した気分と共に食堂を後にした。