あの時、一瞬だった。
さほど長い間ではない。しかも、会話らしい会話はしていないではないか。
成正様が、几帳のすぐ側に腰を下ろしたらしい。
几帳を隔てて男がいるのだ。しかも、何度も恋文を送ってきた男が。
それだけでめまいがする。
「いいえ。実は、歌会の前、私は貴方をかいま見しました」
「!」
彼は几帳を隔てたまま話した。姉の子供のことを。
それを聞いて思い出した私は、どうしようもなくいたたまれなくなった。
顔が熱い。
熱でもあるように。
ほめられるのは、慣れない。
だが、嬉しかった。
悪口を言われていた私に、そう言ってくれた人がいたこと。


