今まで文など、身内くらいしかやりとりをしたことがない。
まして父よりも位の高い人物と文のやりとりをするなど、想像できるわけがない。
「ああ、困ったものだわ……」
普通、始めのころは文が私のもとに文が届くまでに女房や親が読み、内容や文の紙の色、筆跡を確認し、返歌を代筆する。
それが全く無かった気がする。私の知らないだけかも知れないが。
代筆の次、親の承諾を得ると、今度は本人同士のやりとりとなる。
前にこんな和歌が届いた。
かくとだに
えやはいぶきの さしも草
さしも知らじな
もゆる思ひを
(こうだとすらいうこともできない、もぐさみたいな私の恋心、あなたは知るよしもないだろうね、このくすぶり燃えるほどの思いを)
私が真っ赤になったのはいうまでもないだろう。


