「なぜ、藤を?」
藤原宏道はそうたずねた。
話しがある、などと文を受け取っていた宏道であったが、男……藤原成正が話したことに少し、驚いたのだ。
位は成正のほうが高い。男はどこか遠い目をした。
「私には腹違いの姉がいて、その姉には子どもがいます」
そうだ。あれは少し前。
女たちが集まって雑談をしていると、遊び盛りの姉の子が筆を持って走っていく。
誰がにぶつかったら、と慌てたが遅かった。
偶然通りかかった藤の君とぶつかり、着物を汚した。
姉は慌てて子どもを叱った。子どもは泣き出す。
その様子を見ていた藤の君はしゃがみ、子どもの涙を拭った。
怪我はなかったか、痛いところはないか、などと聞いたという。


