男はすこし、悩んだ。 さてどうすると再び女房が口を開こうとしたとき、その言葉を遮るように発した。 「しかし、部屋がなかろう。来なさい。私の部屋を使うといい」 男はいささか強引について来るように言った。 己の素性も明かさぬ男。危険だと女房は気を引き締める。だが、行き場のないのは事実だ。 このままではいけない。うろうろしているわけにもいかず、としぶしぶついていく。 男はいささかゆっくりとした歩調だった。 父上や兄がいるからわかるが、女と男では歩幅か違う。男は私たちにあわせているのだろう。