留美のピンクのワンピースのお腹は少しだけ膨らんでいた。


留美は10月、杏奈は12月出産だから、秋以降、萌子の身辺は忙しくなりそうだ。


今、幸せそうな杏奈と麻人だが、男の浮気癖はなかなか治らないという事は萌子は人生の中で痛感していた。


好きなら浮気相手になってもいいという女がいる限り、いくらでも再発する。

でも、今は麻人を信頼するしかない。


「俺、おじいちゃんになるんだなあ。」
感慨深げに篤が言った。

「こんなに早くなるとは思わなかったよ。」

そうだ。
前夫と離婚しなければ、この人に巡り合っていなかった。

自分の人生を変えてくれた夫・篤に。

失敗したとしても、いつか必ず幸せを掴むことが出来る。

篤の横顔を見ながら萌子は思った。



ようやく杏奈と麻人が萌子たちのテーブルに来た。

杏奈は篤の前に立った。

「お父さん。」

杏奈は篤の右手を両手で握ると、震える声で言った。

「お母さんと結婚して幸せにしてくれてありがとう。私たちのお父さんになってくれてありがとう。
本当に心から感謝してます…」

杏奈の瞳は潤み、今にもこぼれ落ちそうに涙が溢れていた。

篤が嬉しそうに何度も大きくうなづきながら、杏奈に言った。

「お母さんにお礼をいうのはこっちだよ。お母さんと結婚したから、幸せになれたんだ。杏奈ちゃんとも家族になれた。幸せになるんだよ。」

杏奈の瞳から一雫の涙がこぼれ落ちた。

横にいた麻人がスボンのポケットからハンカチを取り出し、優しく杏奈の涙を拭いた。

その二人の姿を見ている萌子の目から、人生の中で一番幸せな涙が流れた。