Phantom mask

ーー翌日
卍からの呼び出しで、千尋、蓮、広、哲、玲がオフィスに集まった。
後二人ほど幹部はいるのだが、今は遠方に任務に行っている。
土曜日だったため少し千尋は寝坊してしまった。
ウィン…とオフィスのドアを開いたときにはもう千尋以外は揃っていた。

「ハァッ…ハァッ…ごめんなさい~…」
「今日の朝食係りは千尋だね。」

哲が嬉しそうに言った。
平日の日は玲がすすんで作ってくれるのだが、休みの日は一番遅く起きた人が作るという軍の特殊なルールだった。

「さて、任務の概要を報告する。」

卍はいつもとは違ってピリッとした空気を纏まっていた。
雰囲気もあるのかもしれないが、軍の制服を纏っているからだろう。
卍は仕事をするときは誰よりも頼りになる人だ。

「もう、蓮には任務をかじってもらったが…。今度の凶悪犯は、ハッカーだ。」
「ハッカー…。」

千尋は呟く。
隣の蓮をチラッと見る。

(ハッカーにも色々いるのね…)

「まぁ。今回のターゲットはハッキングだけじゃなくて強盗、殺人までやっていた奴だ。被害者は10人だ。三年前に罪を犯して、逃亡していたが…近頃似た手口のハッキングが見つかったそうだ。」

皆静かに聞いていた。

「警察の方で綿密に調べ、居場所を特定してある。だが、入り込むのが厄介らしくてな。
一種の要塞と化しているようだ。んー、といっても地下空間らしいがな。」

卍はそこまで言うとオフィスのスクリーンにプロジェクターでターゲットの顔を映した。
若い男だった。顔に大きな傷もある。

「木山 千景(キヤマ チカゲ)もとは自衛隊員。体力もある。明るく、友達も多かったらしい。
パソコンの技術に長けていて、色々とソフトとかも作ってたようだ。そんな自衛隊が突如、隊から消えた。そんで、二日後には事件が起きている。 
とりあえず、そこまでは説明を受けた。
処刑執行手形ももらってある。」

と、一枚の紙を掲げてみせる。
処刑執行手形がないといくら死刑執行軍隊と言っても殺しは出来ない。

「任務は今夜から取りかかれ。玲はここに残って情報収集。千尋、蓮、広、哲は現場へ向かえ。俺はここで指示をする。
以上が任務内容だ。分かったな。」

卍がオフィスを見渡す。

「はっ。」

ビシッと右手で敬礼を返す。
いつもの空気は家族みたいにゆるいけれど、任務となると話は別だ。
皆一生懸命任務を全うする。

「そんじゃ、解散。」

ヘラッと卍が笑うとオフィスの空気もゆるむ。

「千尋、ご飯頼むね~。」

と、椅子に座りながら哲が言う。
よほどおなかが空いているらしい。

「千尋、野菜とパンは買い置きしてあるわよ。」

ふんわりと玲。

「千尋、ダガーの手入れは終わってる。」

広が欠伸をかみ殺しながら言った。
眠いらしい。

そして……
フワッと千尋の頭の上に暖かいものが触れた。
蓮は一言、

「寝癖。」

と言って、千尋の寝癖を直してくれた。

「なっ……!!あ………ありがとう。」

しょうがないので素直に礼を言う。
卍はにやけ顔だが、広は…

ーーーバキッ

「あー……卍から借りたシャーペン折れた…。」

と言って、卍の折れたシャーペンをゴミ箱に放る。

「っえっ!?ねぇ、広君シャー針じゃなくて?シャーペン折れたのっ!?」
「あぁ、何か不都合が?」
「あるよ、大ありだよっ!!あれ、テーマパークの限定品だったんだよ!?」
「ほー、ご愁傷。」

様をつける気も無いらしい。
和やかな雰囲気が漂い始めた朝だった。