「あー、疲れた。」

終礼の鐘が鳴ると同時に千尋は大きく伸びをした。

「もう少し女の子らしく伸びたら良いのに。」

そう言って千尋の向かい側に座ったのは千尋の唯一の親友である天城美雪(アマシロ ミユキ)だ。

「あら、女の子らしくなかったかしら。」
「まるで親父のようだったわ。」

フフフと二人で笑い合う。
ちょうどその時、廊下の方から女の子たちの黄色い声が聞こえた。

「キャーッ!!九条くぅーんっ、一緒に帰ろーっ!!」

女の子たちが騒いでいる九条君というのは九条蓮(クジョウ レン)といって、イケメンで成績優秀運動神経抜群な我が校の王子様である。
同じクラスになってしまったから放課後うるさいのは避けられない運命だ。

「モテるねぇ、九条君。」

苦笑しながら美雪が言う。

「疲れると思うがな、あんなに騒がれてても。」

千尋や美雪はイケメンに興味がない。
当のイケメン君本人はというと…

「あぁ、ちょっと待っててね?」

とか言いながら女の子たちににこやかに手を振っている。
すると千尋の方に体を向けて近付いてくる。
千尋は少しびっくりしてしまった。

「香月さん。」

イケメンのイケボで名前を呼ばれる。
千尋は寒気が走った。

「なっ…なに?」
「これ、先生からプリント預かってたから。」

そう言ってプリントを差し出してくる。

「あ、ありがとう。」

千尋は奪うようにしてプリントをもぎ取った。
ーーーーーー早く向こうへ行ってくれ。
千尋は心底そう思った。女の子たちの視線が痛い。
向こうへ行くどころか、蓮は千尋に顔を近づけてきた。
耳に吐息がかかる。

「ちょっ!?近いっ!!!」
「これからよろしくな。」

それだけ言うと、蓮は足早に女の子たちのところに戻っていった。
美雪も千尋もぽかんとしていた。

「……。」


ーーーーーーー………どーいうことっ!?