パンッ、パンッと空に煙が上がる。
「ただいまより、第64回下月高校体育祭を開会いたします。」

「始まっちゃったねぇ...。」

美雪は、千尋の頭にハチマキを結びながらアンニュイに呟く。

「美雪は運動苦手だったっけ?」
「うん...苦手...」

くるっと千尋は後ろを振り返り、美雪を見た。

「徒競走はどうにもならないけど、リレーとか他は私がカバーするからダイジョーブッ!」

千尋はバシッと美雪の背中を叩いて、走って選手種目に行ってしまった。

「いったいな...。」

美雪は千尋の行った方向を見つめながら微笑む。

「ほんとに...可愛いんだから...。」



走っていく千尋を蓮は視界にとらえた。
そのまま目で追っていくと、選手種目に出るようで編成所に並んでいた。
いつもより大分楽しそうで、目が輝いている。
-----------------どんだけ運動好きだよ。
蓮はつい頬が緩む。
-----------------かわいいやつ。

「蓮くーんッ!」

後ろを振り向くと蓮を取り巻く女子たちだった。
蓮は王子様スマイルで女子の元へと歩いて行った。

「蓮君ッ、私たちと一緒にお弁当食べない?」
「い...あぁ、良いよ。昼ご飯一緒に食べようか。」

そんなことを話しながらテントの方へ向っていると、前の方が騒がしかった。
----------------何だ?
主に騒いでいるのは生徒、観客関わらず女性のようで。
その中心にいたのは

「あ、蓮!」
「...よぉ。」

広と哲だった。玲はまだ向こうの方で男性の視線を集めていた。
---------------そうか...。こいつら顔良いんだな。
至極失礼なことを思いながら、双子に絡む。

「来るの早ぇな...。」
「うん、一番みたいのは仮装リレーだけどせっかくなら全部見ようかなーって。」

哲が楽しそうに答える。

「玲姉が弁当作ってくれたしな。」

広が口に手をあてて、あくびをした。

「あれ...、千尋は...?」
「ん...?あぁ、今から選手種目に出るみたいだった。」
「アイツ、はりきってただろ。」

広がニヤケながら言う。

「千尋、体を動かすの大好きだからね。」

その時、おぉっとどよめきが起こる。
3人でメイングラウンドの方を見ると。
100m走をぶっちぎりで走る千尋がいた。

「「「おぉ...」」」

観客と同様、やはりそれしか言えないのである。

「ちょっと千尋にお前らが来てること伝えてくる。」

と、蓮は千尋が走り終えた場所へと走って行った。