「はぁ………。ホントに朝ごはんは散々だったわ。」

そう言いながら千尋は学生鞄を持ってビル(家)から出る。…と、そこには。

「やっ。」

片手を上げてにこやかに微笑む蓮がいた。

「「やっ。」じゃないわよ。なんでいるの。」
「千尋を待ってたに決まってるでしょ。」

さも当然のように蓮は言う。

「別に一緒に行かないといけない決まりは無いのよ。むしろ一緒に行きたくないんだけど。」

無情な言葉を千尋は投げかける。

「釣れないねぇ。」

蓮には全く応えていないようだが。

「そーいや、そろそろ体育祭だね。」
「そうね。」
「仮装何にする?」

千尋たちの学校の体育祭では毎年学年別で仮装をする種目がある。
まぁ、それでリレーをするのだが。

「決めてないけど……動きやすい服装でしょうね。走るんだし。」
「実用性重視か……千尋らしいね。」
「あんたは何にするのよ。」

本気で聞きたい訳じゃなかったけれど一応聞いてみる。

「んー、何がいい?」
「は?なんで聞き返すのよ。」
「女子の希望は聞いとかなきゃねww」
「しらないわよ。」
「えー、言ってよ何か。俺だって決めかねてんだから。」

蓮がしつこくつきまとう。

「王子様の格好したら?あんだけ王子様って言われてるんだし。」
「でもさすがにカボチャパンツはないよね。」
「ぶはっ……!!」

千尋は蓮のカボチャパンツ姿を想像して吹き出してしまった。

「あー、笑った。俺の勝ち。」
「どういうことよ。」
「いや、今日ずーーっと、てかまぁ、朝ご飯のときだけど。笑ってなかったから、笑わせられたら俺の勝ちって決めてたんよ。」
「ちっちゃい勝負ね。私笑わして何か楽しいわけ?」
「うん、千尋の笑った顔は好きだよ。」
「………っ!!!!!!」

不意打ちに顔が一瞬で赤くなってしまう。
蓮はそんな千尋のほっぺをぎゅーっとつねる。

「うにーーっ」
「顔がトマトみてぇだな。やらけぇし。」

千尋はバシィッと蓮の手を払いのけると

「ばっかじゃないのっ!!??」

と怒鳴って早歩きになってしまった。
それでも走って行かない千尋に蓮はにやけてしまう。
蓮は千尋が行ってしまったあと、そっと胸に手を当てる。

「………落ち着け。」

自分に言い聞かせるように呟く。
蓮の鼓動は大分速くなっていたのだった。