「で?何で来たんだよ。」

広は不思議でたまらない。

「暇だったんだもーん。」

千尋が伸びをしながら言った。

「広も暇だと思ったし、まだ寝てると思ってね。朝飯もいくらたっても出て来ないから俺が作ったよ。」

「う………すまん。」

広は一応双子の兄ではあるが、哲には頭が上がらない。

「いーじゃん、何して遊ぶ?」

千尋がワクワクしているのが目に見えてわかる。
玲はにこやかにその様子を眺めている。
蓮は広の部屋にある機械や工具を興味深々で物色していた。

「宿題終わってねぇんだよ~…。」

広は参った顔で言った。

「そんなの私も終わってないわ。」
「俺も。」

千尋と哲は口を揃えて言う。

「今週は課題無かったのよね。」

玲は大学生で、課題があることがまちまちである。
一方蓮は…………

「終わったー。」

ふあ~…とあくびまでかましている。

「なんですって!!!!」

千尋が貴婦人みたいな声を出した。

「今すぐ写させなさいっ!!!!」
「自分でしろやっ!!!」

千尋と蓮の取っ組み合いが始まる。

「さすが優等生。」

哲は皮肉を込めて言った。

「哲君、目が笑ってないわよ。」

フフフと玲。
ゆっくり過ごそうと思っていた休日も形無しである。

「あ、私さっきケーキ焼いたのよ。宿題しながらみんなで食べたらどうかな……。」

そういって、玲は部屋を出て行った。

「あ、待って玲さん。俺もついてくよ。」

哲も後を追っていった。

「俺もパソコン取ってくるわ。」

丁度良い機会だと思ったのか蓮も立ち上がる。
広は千尋と二人っきりになってしまう。

「みんな行っちゃったね~。」
「……そうだな。」

千尋は部屋をキョロキョロと見渡していた。

「……大分……仲良くなったんだな…。」

ポツリと本音が漏れてしまった。

「……え?」

千尋が不思議な顔をする。

「あぁ、九条?いちいちムカつくけどね。」

そう言いながら、千尋はアハハと笑っている。

「いきなりキスされたのに…嫌じゃなかったのか?」

広が一番心配していたことだった。

「んー……そりゃぁ、初めてだったし?でも……そんな深い意味は無かったからさ。それに……しょうがなかったのかなって。」
「しょうがなかった?」
「九条はね、女の子への接し方が全くわからないって言ってた。モテすぎてて。まぁ、理由聞いてもムカつくけど……一人ぼっちだったってことでしょ?あんま詳しくないけど、クラスじゃいつも女子に囲まれてて、男友達とあんまりつるめてないはずだし。」

千尋は悲しげな表情だった。
千尋は親を無くしてから、ひとりだった期間が長い。軍には所属していても、同年代の子供が周りにいなかったのだ。
広や哲が軍に入ってきたのは、小学生の中学年くらいからである。
誰よりも、1人という言葉に敏感なのかもしれない。
だが、広は100%蓮に同情することは出来得なかった。


ーーーー千尋を取られるわけにはいかない。

広はどうしても、そんな気持ちがあった。

「………広?」

気付いたら、千尋の頬に手を添えていた。
千尋の顔がきょとんとしていて、クリッと大きな目が広を見ていた。

「………っ!!!悪ぃ……何でもねぇ………」

広はパッと手を引っ込めた。

(何してんだよ……俺っ!!!)

「ただいまー。」

と蓮が帰ってきた。
ノートパソコンを小脇に抱えている。
それから、玲も哲も帰ってきてパーティーさながらの宿題会となった。