Phantom mask

夜に任務があるので、隊員はそれぞれのんびり夜に備えている。
自らの仕事道具を手入れする者もいれば、本格的に遊ぶやつ、それぞれだ。
千尋は、手入れを広にまかせているため、広の部屋へと向かった。
コンコンと部屋をノックする。

「…いいよ。」

と、広の声が聞こえた。

「お邪魔ー。」

と言っていつものように広の部屋へと入る。

「ダガーは少し歯切れが悪くなってたから研いでおいた。」

そう言って、コト…と小さめのナイフを机の上に置く。広の言っているダガーとはこのことだ。
千尋の仕事道具である。

千尋はそれを受け取るとヒュッヒュッと回し、広の鼻先に突きつけた。
広は平然としている。

「よく切れそうね。」
「俺が研いだからな。」

ニィ…と千尋が笑うと、めったに笑わない広もニヤリと笑う。

「千尋。」
「?」
「髪結んでやるよ。」
「うんっ。」

小さい頃から一緒にいる広は髪を扱うのが非常に巧く、今は美容師を目指して専門学校に通っている。
高校に入ってからは少し忙しくなって、朝結んでやることも少なくなったが、中学校まではちゃんと広が結んでいた。
千尋も広に結んでもらえるのが嬉しい。
安心できるのだ。
まぁ、広が結ぼうと思ったのは朝蓮が千尋の髪の毛を触っていたからというのもあったが、口には出さない。
千尋の髪を梳きながら広は少し安心していた。
蓮が来てからと言うもの、千尋がさらわれる気がして落ち着かなかった。
目の前でキスなんかされた時にはとち狂いそうになっていた。
最後にしっかりゴムでとめて、ポニーテールにしてみた。
千尋に一番似合う髪型だと広は確信している。

「ありがとー、広。」

この笑顔がたまらない。

「千尋、哲が毒の準備が出来たって言ってたぞ。」
「あ、そうだった!!頼んでたんだった」

広の片割れである哲は毒や爆発物のプロである。

「行ってくるね!!」

千尋は明るい顔で部屋を出て行った。

「……。(もう少し引き止めといても良かったな…。)」

広の後悔を千尋は知らない。