「俺は、離さないといったはずだが。」



握りしめた拳を震わせながら言う先輩。



言った、ね。


あのときは受け止めてくれるかと


救って貰えるかと思ってた。



けどね。


それ以前に、幸せになっちゃいけないから。


離してもらわなきゃなんですよ。




繋いでいたあたしの左手と先輩の右手。



これが離れたら、あたし達は終わる。



手をそのままに先輩の前へまわりこんで抱きついた。



この匂いも

この温かさも


この安心感も最後。



顔を胸にあて隠しながら深呼吸をする。



…………。




バッと身体を離し、同時に手も振り払った。






「さようなら、立石先輩…」






その言葉を最後にして


すでに着いていた家へ入った。





一度も後ろを振り向かずに。