冬。
某県某市の地方チェーンの本屋――そこが俺の唯一とまではいかないが、この街じゃ数少ない安息所だ。
なぜかといえば、ゲームセンターに行こうものなら、不良達にカツアゲをされ、図書館に行けば受験を控えた五月蝿い先輩方に睨まれる。

「ああ、めんどくさいな」

いつの間にか口癖になったこの言葉は、寒さで白くなったため息と一緒に出る。
そのうちドラえもんのコエカタマリンだっけか、それみたいに「めんどくさい」とゆう言葉が、口から出てくるんじゃなかろうか。
そんなことを思いつつも、俺は小説コーナーに置いてある東野圭吾の「探偵ガリレオ」を立ち読みし始めた。

前までは何回も眼鏡をかけた店員のおば様に注意されていたが、諦めたらしく、今は何もせずにこちらをたまに睨むだけだ。
俺にはおば様が、俺が万引きするのを待つ雌ハイエナのように見えているのは、誰にも言っていないし、言うつもりもない。
一時間もすれば一冊読める東野圭吾先生の小説は、本当に素晴らしいと思うことは親友である男に言っている。

「次はなにを読もう……ん?」

次は「グラスホッパー」を読もうかと思ったが、俺は手を止めた。
入店音楽が鳴り、そこに入ってきたのは、身長は百八十ぐらいはあるうちの高校の制服の人物だ。
俺はその人物には見覚えがある。

「鬼丸先輩……?」

鬼丸 美夜子先輩。
女の子なのに身長は百八十センチあり、何をしているかは不明だが少し筋肉質な人だ。
いくら教室の隅でいつも大人しく本を読んでる俺でも、噂ぐらいは――声が大きい噂好きがいるので強制的に、の方があってはいるが――入ってくる。

無言のまま、何回か見たことがあるムスッとした顔でレジに近づいていく。
おば様が多少ビビって接客をしはじめるのは吹きかけたけど、鬼丸先輩に見つかるのも嫌なので、近くにあった西尾維新先生の「ネコソギラジカル(中)」を見る。
何かを聞いてから、舌打ちしてこちらに向かってくる。

「……どけ」

鬼丸先輩がボソッと呟いたので、俺はその通りにしてどいた。
そのまま直進して、小説の新刊コーナーに向かう。