はうんざりしていた。
彼女は夏が大嫌いだった。

うだる様な暑さ、
一瞬の花火と共に消える夏祭りやそれに伴う人、
人人人。


夏と言うのは長い一瞬。


一瞬の間にどれ程の人間が出会い、
どれ程の人間が別れ、
どれ程の人間が涙を流し、
どれ程の人間が歌い、
どれ程の人間が悲しみ、
苦しみに耐えるのか。

どれ程の人間がこの暑さに身を任せ、身を委ね、気を許し過ちを犯すのか。

そんな浮き足立つような、歯痒くなる様なこの長い長い一瞬に彼女は嫌悪していた。
その反面彼女は気付かぬうちにその歯痒さに悶絶していた。


彼女は夏が嫌いだ。


嫌い故に彼女はその長い長い一瞬を存分に楽しんでいた。

哀れむ私、嘲笑する私、嫉妬する私、夏に恋する私。
陶酔する私。


彼女は全てわかっていた。
夏を愛していたことも、この世で一番陶酔していたことも、この夏に現れる大勢の人間に嫉妬していたことも。
それを踏まえた上で彼女は夏と結ばれる事を拒絶した。
そうして自分のポリシーと言うものを貫いていると思っていたのだ。


それ故彼女は溺れていくのはいとも容易い事だったのだ。