拝啓、顔の見えぬ貴女様
白露を過ぎ朝夕に秋の気配を感じる頃となりました。
ですがまだ残暑が厳しく続いております。お変わりなくお過ごしでしょうか。

初めまして。
メールではやり取りをしていましたがこうして文字に自分の感情をこめた言わば生き写しの様な直接的な接触は初めてですよね。でも貴女様が読む頃では今の私は過去の私でしょう。
貴女様が読んでいる今の私は過去の私にとって未来の私なのです。
そして貴女様が私にお返事を書いてそれを私が読む時お返事を書いている貴女様はそれを読んでいる時の私にとって過去の貴女様なのです。
そうして時間はリレーされていく。
そう考えるととてもロマンティックではないですか。
ごめんなさい長くなりました、つい一人で考え事をしているとつらつらと語ってしまうのが私の悪い癖です。


長い挨拶を挟み遅くなりましたがメールでお約束した自己紹介をしましょう。
私は   。勿論本名ではありません。
立派に成人致しましたがこの世がとても歪で、嫌で、逃避する為に自分の存在をバーチャル化する為に偽名を使っています。
この前のメールに書いたお茶会というものはそういう人間たちが集う言わばオフ会と言ったところでしょうか。
私の仕事はアパレル系企業。ブラック企業中のブラック。
一ヶ月に70時間残業しようが残業代はたったの5000円ポッキリ。
業務内容も限りなく犯罪に近いグレーゾーン。
今更転職といってもこのご時世。そんな勇気も無く只々流される毎日です。
趣味は幅広く読書や音楽、映画鑑賞という在り来たりなものから芸術鑑賞、球体関節人形収集などまで様々です。
この手紙の中でお話する機会があればしたいと思っております。

では自己紹介はこの辺にしておきましょう。
また何か質問があればお返事を返してくださるときにでも。


どこからお話しましょうか。
彼と出会ったのは今から8ヶ月ぐらい前のことだったと思います。
それは春ぐらい、春に別れを告げて梅雨が顔を出す時期でその日も雲たちが低空飛行し淀んだなんとも切なくさせる様な天気でした。