終わりのお話【短篇】

Aさんは、朝起きるのです。歯を磨く為に洗面台に向かいます。少ししか残っていない歯磨き粉を何とか絞り出して、せっせと歯を磨くのです。毎日、毎日磨くのです。一日も欠かさずに…。眠気を覚ます為に顔を洗って、箪笥の中から洋服を取り出して、ネクタイを選びます。昨日とは違うネクタイを…。朝食はゆっくりと食べる暇なんてないから、急いでパンを食べるのです。焼いたクロワッサン何て美味しいのだけれど、Aさんは食パンを食べてコーヒーで流し込むのですよ。履き古した靴は毎日取り替えません、ネクタイとは違うのだから。急ぎ足で駅に向かうのです。良く知ってる駅なのです。何せ毎日通ってるんだから。途中で何人かの女のAさんにすれ違うのだけれど、ついスカートで自転車なんかに乗っていると、足下や太ももに目が行ってしまいます。急いでいるんだけど、しかたがないのです。それがAさんなんだから。駅に着くと切符を買うね?Aさんは買わなくていいのです。何せ毎日乗る電車だから、定期券を持っているのです。決まった場所から、決まったドアに入り、決まった席へ…は座れないのです。何せ、さっき言ったように、沢山のAさんがいっぱいいるのだから。皆Aさんなのだから。