雪が咲く世界

図書室へ行けば既に杜若くんが不機嫌そうにノートと教科書を開いていた。

まさか先に来ているとは思わなかった。

というか、来るかどうかすら怪しんでいたくらいだったから。

私は僅かに驚きながらも近付いた。


「お待たせました」

「ホント、待ちくたびれたー」

「…すみません」


更に不機嫌そうになった彼にそう言われ、軽く頭を下げる。

そうしたら杜若くんが「ぷっ」と笑った。


「冗談だよ冗談!俺そんくらいで怒んねぇから」

「は、はあ…、」


とりあえず怒ってないようだ。

私は彼の真正面に座り、筆記用具を取り出した。


「え、隣に来いよ。結構テーブル広いしやりにくくねぇか?」

「……それじゃあ、失礼します」


危ない危ない。一瞬嫌悪感から顔が歪みそうになってしまった。

正直すぐ近くは嫌なので、少し椅子を離してから隣に座る。

ちなみにこれは別に彼だかというわけではなく、単に男の人に慣れていないからである。


「じゃあ始めま、」

「なぁなぁ、呼び方は斉宮ちゃんか斉宮っち、どっちがいい?」

「…どちらでもいいです」

「じゃあ雪空でいこう」

「……選択肢に無いうえ呼び捨て……まあ、いいです。では始め、」

「てゆーか斉宮でいつきとか珍しい読み方するよな。俺、自分の名字より難しい読み方のやつ初めて会ったぜ。なんでさいみやじゃねぇの?」

「………」


一向に勉強を始める様子もなく、引っ切り無しに質問を投げ掛けてくる彼に威嚇するように、私はドンッと大きな音を立てて教科書をテーブルに乗せた。

それが効いたのが、一気に黙る杜若くん。


「始めてもよろしいでしょうか」

「お、おう…」


さすがに私が怒ってるとわかったのか杜若くんは素直にシャーペンを取り出した。