私の日常が変わっていくキッカケを作ったのは、小さな出来事だった。


「杜若の勉強を見てやってくれないか?」


昼休みに担任の沢原先生に職員室に呼び出され言われた事を聞いて、私は思わず「は?」と返してしまい、慌てて謝った。


「気にするな。むしろそれくらいフレンドリーに接してくれて構わんぞ。お前は堅すぎる」

「そんな事は無いですよ」

「……まあいい。本題に戻ろう。近々中間テストがあるだろ?」

「はい」

「それなんだが…今年は生徒の士気を上げようとクラス対抗で平均点の合計点数を競い合い、一位になったクラスには賞品が出る事になったんだよ。しかしうちのクラスにゃあ学年ドベの杜若がいる。いくら学年トップのお前がいてもまずい…だから」

「私が杜若くんに勉強を教えろ、と」

「そうだ」


なるほど。クラス対抗の点数バトルねぇ…。

普段怠そうにしている沢原先生がこんなにやる気になるなんて、賞品とはそんな凄い物なのだろうか。

まあ、勉強を教えるだとか点数勝負だとか賞品だとか、そんなものは別にいい。

けれど、杜若くんに教えるというのは、かなり抵抗がある。

杜若くんは苦手というか、正直“嫌い”のカテゴリーに入る人だから。


「ダメか…?」

「……」


しかし、先生からの頼み事はなるべく断りたくない。

と、いうか性格的に断れない。

私が静かに頷くと、先生は嬉しそうに笑った。


「じゃ、杜若には先生から言っとくから、今日の放課後からよろしくな!」

「はい」


ああ、しっかりやれるだろうか。

私は下唇をキュッと噛んだ。




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