店長が、直ぐに手配をしてくれたらしく
「たまたま近くに空車がいたみたいで5分位で来るそうよ。それにしてもこんな遅くに病院なんて、どなたか入院でもしたの?」
タクシーの状況を話してくれ、心配そうに聞かれたが何と言っていいのか、自分でも理解出来ていないため、言葉が浮かばずためらっていると
「あぁ、いいのよ。話せるときに、また、ね?」
店長は優しく微笑んでそう言ってくれた。
その気遣いが有り難く、彩乃はほんの少しだけ、力なく頷いて、ガラス窓からタクシーの来るであろう通りを見ていた。
そっと胸元をのぞきこむと、紗彩は突然の外出にもかかわらず、静かに抱かれたまますやすや眠っていた。
ぼんやりと静かな夜の通りを眺めているが、心の中は静かになど考えることが出来ず、何をするべきなのか思い付かなかった。

