だが、当然だが、幸太はもう彩乃達に返事をすることも、微笑むことも、なにひとつできなくなってしまったのだった。
悲しいはずなのに、彩乃の目からはもう涙が出てこない。
あまりのことに心が麻痺してしまったようだ…
ただ、(あぁ、親に電話…あっ、会社も。っあ、家の名義とかいろんなの…しなきゃ…)などと 事務的なかなり冷めているような事ばかりを考える。
はたからみたら、なんて冷たくて愛情のない態度ね、と、蔑まされそうな涙のない硬い表情。
でも、仕方ないのだ。
そうでもしていなければ、腕の中にはまだ歩くことも出来ない娘も居るのに、耐えることなどできなかったのだ。

