『歩』〜人は愚か〜

家までの道のりは長かったのだろうか
気がつけばお姉ちゃんから渡された黒っぽい服を私は両手にかかえただ世話しなく動くたくさんの大人たちを見ていた
邪魔にならないように隅っこで立ち尽くしながら

母は本当に死んだのだろうか

鳴り止まない電話の音

どんどん進む葬儀の準備

日が沈む頃少し前「納棺をするから来なさい」と誰かに言われた

母の顔はまるで寝ているようだった
『昼からなに寝てんだよ』心の中で突っ込んでみた
家に居ないだけの母から
この世に居ない母に変わるその瞬間はこんなもんなのか？

布団から箱の中に母の居場所が変わる
それは、未知の世界の入り口なのか？
ねぇ、教えてくんないかな？
お母さんは死ぬ前幸せだった？
ねぇ、お母さんは私を産んで幸せだった？
私はこれからどうなるんだよ
誰も、教えてくんないんだよ
最後に教えてくれないと困るじゃん
そう思いながら母を見つめていた

「少し休みなさい」
納棺が終わって兄と姉はそう大人たちに言われ二階に上がった
その後を私は付いていった