目の前の手が離れて、
チラッと拓人を横目で見ると、
くるくるとハンドルを回して、
車がゆっくりと動き出した。
カーディガンの袖を少しまくって、
高校の頃とは違う、黒くて太いベルトの腕時計が見えた。
大人っぽくなったな・・・拓人。
運転している拓人を眺めてそう思った。
「んで?こっから?」
「あ・・・ごめん。えっと・・・」
横目で見ていたつもりが、
いつのまにか、じっと見つめてしまっていた。
「あの信号右で・・・」
「右な・・・」
拓人にバレないように、
また横目でずっと見つめていた。
大人っぽくなった拓人を、
ずっと眺めていたかったから。
拓人は慣れた手つきで、
ハンドルを右に回した。
しばらく走って、信号で止まった時、
拓人がくるっとこっちを向いて、目が合った。
正面からメガネ姿の拓人を見て、
胸がきゅんとした。
拓人は左手を伸ばしてきて、
私の頭をガシッと掴んで、前を向かせた。
「見てんじゃねー」
そしてまたハンドルを持って車が動き出した。
見るなと言われても、
どうしても見たくて。
またじっと見つめてしまって・・・
また怒られて・・・
大きなワンボックスカーを運転している、
私の知らない拓人に、
助手席から、ずっとドキドキしていた。
家の前に着き、
私は車から降りて、家の脇に止めてあった自転車をどかして、
拓人の車が停められるようにした。
玄関の前で駐車する拓人の様子を眺めていた。
・・・本当にメガネがよく似合ってる。
しばらく待っていたら、
エンジンが止まり、拓人が降りてきた。