「あーーーっ!」
「何だ?」
これはあの後悔の夜、ホテルの部屋に忘れてきたキャミソールだ。
家に帰った直後にシャワーを浴びようとして、忘れ物に気づいたのだった。
「何でアンタがこんなもの持ってるのよぅ!」
実はこのキャミソールはイタリア製で
上下セットで2万円と少々値が張るものだったけど
どうしても欲しくて買った超が付くほどのお気に入りだったから
忘れたことをすごく後悔していた。
だからと言ってホテルに取りに行く勇気もなく
バカな事をした代償だとあきらめていたものだった。
「おいおい 忘れ物を届けてもらったにしては随分な言い様だな」
「いや、そういう事ではなくて」
謎解きの切欠を与えられた探偵のように
早送りで記憶を辿ったまではいいけれど、肝心の謎が解けないままだ。
「どうしてあの部屋に忘れたコレをアナタが?」
「どうして?・・・分からないか?」
「もしかして、あのホテルでルームメイクのお仕事でもしてるとか?」
「はい正解!・・・なわけないだろ。本当にバカか?お前は」
両手を広げて二、三度軽く頭を振り、距離を詰めてくる彼が私の正面に立った。
私が握り締めているキャミソールを指先で軽くなぞり唇を寄せ軽く触れた。
「ちょっ!」
「いい趣味だ。俺好み」
「それは、どうも」
「中身は・・・もっと好みだったけどな」
「は?中身って・・・ええーーっ?!」
驚愕する私を一瞥して呆れて笑った彼が盛大なため息を落した。
「ようやく気づいたか?身体と違って頭、鈍すぎだな、お前」
「うそ~~~~!」
まさか、あの夜の「おにーさん」が目の前のこの人と同一人物だなんて
誰が思うだろう。ヘベレケに近い状態だった私の記憶は曖昧で
その上、バーもホテルの部屋も暗かったし、顔の造作を思い出せと言われても・・・
思い出せるのはあの強い視線だけだ。
朝、目が覚めた時には、もう焦るばかりで
相手の顔なんてマジマジと見てはこなかったし
何より一夜限りの情事だと努めて早く忘れようとしていたのだから
気づかなくても責めないでもらいたい。
それに、こんな偶然、あると思うほうがどうかしているでしょう?!
「シンデレラを気取るにも、もう少しマシなものを置いていけよな。
いくら俺でも、そんなもの片手に捜し歩くのは無理だ」
そりゃそうでしょう。
むしろ平然としてそんな事ができる男がいたら怖い。
「できれば、そのまま放置して欲しかったわ」
自分の下着をよく知りもしない男が持っていたなんてぞっとしない。
…まぁ…あんな事があったのだし、厳密には知らないとは言えないけれど。
「そのまま放置してきたら、ホテルの忘れ物棚にタグを付けられて陳列されるだろう」
「その方がよかったわよ」
「バカ。俺が迷惑だ」
「どうして?」
「女物の下着に『○月○日、△△号室、南波様』なんて書かれたタグを付けられたら
恥かしいだろうが」
ああ、そうか。それも一理ある。この人の名前で取った部屋だったし
何よりスマートで卒のない人だ。
生々しいお遊びの痕をホテルの部屋に残しておくなんて無粋なことは
彼のポリシーに反するのだろう。
「えっと。あの・・・一応、ごめんなさい。それから、ありがとう」
「別に謝ってもらうことじゃない。ついでに礼を言われるほどの事でもない」
ソファに座り足を組み変えた優登を見てふと思った事が口を突いて出た。

